魔女は何処に帰るのか
若い魔女が帰郷する。
彼女は魔女であることを隠して
都会で普通の女の子として働いている。
彼女は魔女っぽい服や生活やきまりが嫌いだった。
そういうものとはもう縁を切ったつもりなのに、
彼女が仕事をすると
時々、魔法がかかったようだと言われる。
それは魔法ではなく私の努力なの、
と彼女は思う。
若い魔女は時々帰郷する。
生まれ育った魔女の森の魔女の屋敷に。
彼女はそこで思う存分静けさと
森の気配と冬の気配を楽しむ。
そして自分の魔女の血を感じる。
こんどは、と彼女は思う。
私の力が悪い方にはたらかないとよいのだけれど。
*
全編、写真が印刷されたトレーシングペーパーと
詩が印刷された普通紙を交互に綴じた特殊製本。
夜、時々、晴れ。上空は驚くほど寒い。だけど、そのために特別なコートやマフラーや手袋を揃えるのは好き。私はよく飛びながら泣く。いつも知らないうちに涙が落ちてゆく。とても気持ちがいい。私の涙の粒が、カラマツの葉や湖面に落ち、パラパラと音を立てる。その音を聞くのが好き。
魔女は思った。
魔力なんて使えないって顔で
生きている。
封印して暮らしている。
でもふとこぼれてしまう。
お料理するとき、仕事するとき、
ついこぼれてしまう。
庭を茂らせてしまう。
海と空を荒れ狂わせてしまう。
ついこぼれてしまう。
絶えず水の音がしていた。
魔女の屋敷では、絶えず水の音がしていた。地下から汲み上げた冷たい水で、中庭の噴水はいつも潤っていた。魔女は、街で暮らし始めてから、いつもベッドフォンで水の音を聴いていた。せせらぎ、雨音、噴水。水の音を聴きながら、黙ってするべき仕事をした。
8日から魔力はそこに集中する。赤い箱には魔女の秘密が。黒い箱は花の魔女と薫りの魔女と紙の魔女が強い魔法をかけた。そこで焼かれるパンは独りでも生きていける魔法がかかっている。うたわれるうたは暗がりの小舟。ひとはそれに乗り本来の自分の岸辺へ向かう。
言葉、写真、映像、音楽を魔法のコードで紡ぎつづける作家melancolia storytellingと気鋭のスタイリストchihiroが密やかに届ける、今を生きる魔女たちへの手紙。
本編 魔女の帰郷
サイズ:A5:表紙+本文92P
文字44枚トレーシングペーパーカラー46枚
モデル、スタイリング、ヘアメイク、ワード
chihiro
フォト、デザイン、ワード
melancolia storytelling
特製BOX
竹内紙器製作所
解説
草舟あんとす号
■送料210円より発送可能です。