ときには場所を変え、ときには拠点を変えながら、郷土の象徴としてのサント=ヴィクトワール山に肉薄したセザンヌの、長年にわたる制作のプロセスをあらためて概観してみよう。ガルダンヌなどの例外を除くと、そのほとんどはエクスで制作されており、当初はあくまでも景観の一部であったサント=ヴィクトワール山は、前景や中景にあるモティーフとの組み合わせにより、いっそう複雑な構成の中の核心へと変貌する。その後、山そのものが単独で描かれ始めると、サント=ヴィクトワール山の偉容を仰ぎ見るような、山との近接の感覚が最高潮に達する。他方、最晩年に制作されたレ・ローヴの連作は、自然の広がりと深さの中にサント=ヴィクトワール山を捉える試みであり、季節や天候、時間、そして光の異なる条件において、同じ地点から繰り返し描かれたそれぞれの作品はひとつとして同じ様相を示しておらず、そのヴァリエーションが連作としての総体を豊かに形づくっている。
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セザンヌがさまざまな環境に身を置いたのは、それぞれの「自然」が画家の感覚を刺激して止まないためである。
―以上、本書 おわりに より
出版社より
孤高の画家が描き続けた故郷の象徴、「サント=ヴィクトワール山」の軌跡をたどる。
故郷のプロヴァンスと芸術の中心地パリ――
“近代絵画の父”セザンヌは、なぜフランスの南北を往復し続け、繰り返し「サント=ヴィクトワール山」を描いたのか?「描かれた場所」からその全貌を解説する初の一冊。
知られざる水彩画を含むすべての「サント=ヴィクトワール山」とその関連作を集めた、永久保存版資料。〈全83点、完全収録!〉
本書の特長
◆「サント=ヴィクトワール山」の歩みと
制作の背景、見どころを徹底解説。
◆活動拠点となったパリと
プロヴァンスの風景画も数多くクローズアップ。
◆水彩画を含む「サント=ヴィクトワール山」
全83点を収録した永久保存的資料。
目次
Chapitre I パリ
――画家になることを夢見て、芸術の都へ
Chapitre II プロヴァンス
――強烈な陽光の下に生まれた新たな創造性
Chapitre III サント=ヴィクトワール山
――郷土を象徴する「聖なる勝利の山」
(コラム)
川を描く
湖を描く
海を描く
岩を描く
ガスケの見たセザンヌ
セザンヌとルノワール
ドニとルーセルの見たセザンヌ
想像のサント=ヴィクトワール山
セザンヌをめぐる画家たちの言葉
……ほか
著者プロフィール
工藤 弘二 (クドウ コウジ) (著/文)
東北大学文学研究科博士課程単位取得退学。国立新美術館アソシエイトフェローを経て、現在、ポーラ美術館学芸員。担当した展覧会に「セザンヌ−パリとプロヴァンス」(2012年、国立新美術館)、「セザンヌ−近代絵画の父になるまで」(2015年、ポーラ美術館)、「モネとマティス−もうひとつの楽園」(2020年、ポーラ美術館)、共著に『セザンヌ−近代絵画の父、とは何か? 』(2019年、三元社)など。
発行:創元社
B5変型判 縦242mm 横190mm 厚さ17mm 重さ 581g 160ページ
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