観葉植物専門店として根のある植物を「活ける」とは何か?
考えた末にたどり着いたのは、持続可能性の追求でした。(p.12より)
本書は観葉植物を大切にしている人、大切にしたい人、どうやって手入れしたらよいか戸惑う人にとても手厚い、心強い一冊です。
内容について
構成は主に下記の4つのパートに分かれています。
【初級編】
観葉植物の手入れの方法を「日光・通気・温度・土壌」といった植物の健康の土台となる要素のしくみと管理の基本をていねいに解説
【中級編】
健康維持のための5つのセルフケア「葉水・葉磨き・葉透かし・枯落とし・転回」についてと、木酢液や腐葉土、乳酸菌や珪酸液など「植物の健康維持に役立つ農業資材」の使い方や「植え替え」の仕方、「病害虫や益虫」についてを解説
【上級編】
鑑賞価値を高めるための技術としての「剪定・美しい樹形の基本型についての知識・整形・再生」を詳細に解説
【植物別ケア編】
さらには「フィカス系・シェフレラ系・ドラセナ系・草物系・その他」の5つに分類してそれぞれ適切なケアを紹介
いずれも図や写真付きで具体的に説明されていてわかりやすいです。
他、漫画や植物学的知識のコラム、植物をめぐる哲学的エッセイ、都市環境の微生物コミュニティの研究・事業者である伊藤光平氏との対談なども収められています。
観葉植物専門店「REN」が開業時から提供し続けている「植物ケアのサービス群」に対して、著者の川原氏は名前を付けた方が良いのではと感じていたそうです。そんな折、哲学者・広井良典著『ケア学 越境するケアへ』(医学書院)に出会い、その書物の中で紹介されていたハイデガーの思想「ケアが世界に意味を与える」という一説に、川原氏は人間にとって観葉植物はケアすることを通して「世界を有意味にする存在」であるという認識に導かれていくことになります。そして、「植物ケアのサービス群」は2018年「プランツケア」と命名されました。
コロナで冠婚葬祭が自粛によって縮小し、花卉園芸業界は大打撃を受けた一方で観葉植物を求める人が急増。観葉植物は一躍、花卉園芸業界の救世主に。そんな中で植物と植物を迎えた人との関係が家族のようになっていく「植物の家族化」を著者は肌で感じるようになります。そして2022年からは家族としての植物とのお別れや死に対しても対応する、下取りや堆肥再生化などの手放すサービスを開設。
このような、著者が手探りで進めてきた実感のこもったプロセスについても時に哲学的な視点をまじえながら綴られており、現場の臨場感があってとても興味深いです。
手入れによって100年、800年、1000年、元気であり続ける盆栽は世界に実際にいくつも存在しています。本書を通して、ただ消費して終わりではない、受け継がれていくことも可能な観葉植物との付き合いがより身近になってゆくはずです。
川原伸晃(著)
サンマーク出版
A5判並製 本文222ページ
2023年7月10日初版発行
■スマートレター180円より発送可能です
著者の川原伸晃氏が自身の店舗で提供しているプランツケアについてはこちら▶
https://www.ren1919-shop.com/?tid=2&mode=f87
動画▶
https://youtu.be/nxeQc8xob_g
目次
◎ケアに適した品種
◎日中に読書ができる自然光
◎ゆるやかな空気の流れ
◎土壌をフカフカにする団粒構造
◎根の大半は微生物?
◎欠かせない「マルチング」
◎自然現象と注意が必要な枯葉の見分け方
◎植え替えると大きく育つ?
◎剪定についてのよくある誤解
◎よみがえる植物
著者プロフィール
川原伸晃 (カワハラノブアキ) (著/文)
園芸家。華道家。創業1919年いけばな花材専門店四代目。1981年東京都生まれ。18歳のとき、オランダ人マスターフローリスト、レン・オークメード氏に師事。オランダ最大の園芸アカデミーWellant College European Floristry修了。2005年、観葉植物専門店「REN」を立ち上げチーフデザイナーを務める。2010年、経済産業省主催のデザイナー国外派遣事業に花卉園芸界の日本代表として選出される。2011年、花卉園芸界のデザイナーとして史上初めてグッドデザイン賞を受賞。REN開業時から植物との持続可能な暮らしのサポートを掲げ、購入した植物のアフターケアに取り組んでいる。健康診断や出張、引越し対応、ホテルなど、ご利用者のライフスタイルに合わせたきめ細やかなサービスを「プランツケア(R)」として提供。業界初の植物ケアサービスとしてメディアからも注目を浴びている。