イギリスの植民地戦略を担った植物学者やプラント・ハンターたちの姿を通して、現在では憩いの場として利用される「植物園」の起源を描き出す。志村真幸「はじめに」より
《本書では、植物園という、現在からすると趣味的に思える空間を扱いながらも、経済的な視点から分析が進められています。植物資源の有効利用を研究し、食料や染料を安価に効率よく生産することは、最終的には国益へとつながっていたのでした。とはいえ、植物園が博物学や庭園趣味と結びついていたのも事実です。本書に収められた多数の図版からは、イギリスのひとびとが、いかに熱帯の自然に目を見開いたかが伝わってきます。
植物園は、自然と人間の歴史的な結びつきをあきらかにする格好のテーマです。近代のイギリスと植民地という問題において、植物園がいかに重要な役割をはたしたかが、本書には論じられています》
出版社より
数々の映画や文学作品でも知られる「バウンティ号の反乱」(1789年)。なぜこの英国艦は、はるばるカリブ海までパンノキを運んでいたのか。イギリスの植民地戦略を担った植物学者やプラント・ハンターたちの姿を通して、現在では憩いの場として利用される「植物園」の起源を描き出す。イギリス帝国史研究の原点にして、長きにわたる著者の業績の精華。
本書の著者である川島昭夫さんは、18世紀のイギリスを中心に、科学史、狩猟法、娯楽から、南方熊楠、シャーロック・ホームズまで、博覧強記ともいうべき広範囲な業績を残した研究者です。とりわけイギリスの植民地植物園を論じた仕事は国際的にも高く評価されましたが、本書は、そんな著者が論文集や雑誌に発表した植物園関連の文章から、8篇を選んで1冊にまとめたものです。
本年(2020年)2月、著者は本書のゲラを校正中にお亡くなりになりました。その後の作業は、生前の著者の教え子だった志村真幸さん(著書に『南方熊楠とロンドン』など)が引き継ぎ、このたび完成に至りました。図らずも遺著となりましたが、ぜひこのテーマに関心のある多くの読者の手にわたれば幸いです
目次
はじめに(志村真幸)
第1章 植物帝国主義
第2章 重商主義帝国と植物園
第3章 カリブの植物園
第4章 ブルーマウンテンの椿──カリブの植物園・2
第5章 インドの植物園と大英帝国
第6章 植物学の同胞──インドの植物園と大英帝国・2
第7章 戦艦バウンティ号の積み荷
第8章 海峡の植物園──ペナンとシンガポール
あとがき(志村真幸)
著者 川島昭夫
1950年、福岡県に生まれ、2020年、滋賀県に没する。京都大学名誉教授。専攻は、西洋史。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。神戸市外国語大学、京都大学大学院人間・環境学研究科で教鞭を執る。
おもな著書に、『植物と市民の文化』(山川出版社、1999)、『越境する歴史家たちへ』(共編著、ミネルヴァ書房、2019)、翻訳に、ジョスリン・ゴドウィン『キルヒャーの世界図鑑』(工作舎、1986)、ジョン・H・ハモンド『カメラ・オブスクラ年代記』(朝日選書、2000)などがある。
■発行 共和国
■仕様 四六変形判 縦188mm 横125mm 厚さ19mm 重さ 350g 240ページ 上製
■送料 210円より発送可能です