フランスガムさんの前書きより
「ラシーヌ手帖」などという何か作品めいたタイトルを付けてみましたが、これはある一人の人間の雑記のようなものです。ある一人の人間というのは私のことですが、私は普段絵を描いたり何か作るようなことをして暮らしていて、この度 RACINE というタイトルで小さな展示をすることになり、それについて絵と共に何かを記してみたくなったのでした。ラシーヌとはフランス語で根という意味の言葉です。
根という存在が気になったのは、会場の草舟あんとす号さんで求めたある一冊の本より、植物を考えることで人間を考えるといった著者の視点に救われたところからでした。
それが部屋の窓辺に置いた小瓶、二年前にふと一本頂いて水に挿しておいたものから根がどんどん伸びて、何重にも巻きながらいまだ生き延びているスイカズラの枝の姿に結び付きました。その生命力にはだいぶ救われてきたように思います。
そうしてそろそろ展示の準備をしなければいけない時期になり、ぼんやりラシーヌという言葉を浮かべていたところ、友人がふと送ってくれた美味しいお店情報の店名がラシーヌ(複数形でしたが)だったので、何か縁を感じこのタイトルに決定したという訳でした。
そんな風にテーマが決まり、植物の根を人間の営みに重ねてみるというアイディアがあまりにしっくり来たので半ば陶酔すらしていたのですが、いざ進めてみるとあまりに広がりが大きく、このテーマで十回くらいあるいは一生展示が出来るのではと思いました。私などには扱えぬ壮大なテーマであることは確かでした。植物や何かをすぐ人間に重ねようとする悪い癖も思い知らされました。それでも人間にとっての根とは何だろうと考えていると、根本で人を支えているものや大切にしていること、それは人それぞれだろうし、結局のところ自分の個人的なものや体験から考える他に思い付きませんでした。そんなものを誰が見たいだろうとは思いながらも、今ここに生きている一人の人間として、私はきっと他の誰かでもあるだろうという最後の希望を抱き、こんなものを綴っているのでした。このような頁を開いてくださった方へ、心より感謝です。
前書きにもならない前書。
*
数々の著作を刊行しているフランスガムさんですが、「はじめて個人的なことを記した」という、珍しい一冊。フランスガムさんが記憶の根を伸ばしながら、ご自身の根っこ、原風景となっているいろいろな思い出や出来事を振り返っています。展示でフランスガムさんにお会いしたら思わず話しかけたくなるようなお話が満載です。
■挿画のカラーバージョン「初めての友達」のポストカードとのセットです。
■文庫サイズ
■本文・挿画モノクロ 全44ページ
■送料タイプ A
■最小根本形態 スマートレター