出版社より
ダーチャ......それはソ連時代に都会に住む人びとの別宅として建てられた木造のコテージである。当時広く普及したこの建物は、学術的に今までほとんど注目されたことがなく、保全は不十分であったため年々その姿を消している。
本書は革命、戦争、共産主義の崩壊などを乗り越え、その過程で人びとの生活の不可久な一部となったダーチャを集めた貴重な資料集だ。序文では歴史的・文化的背景を解説する。
あとがきより部分抜粋
ダーチャには猫のリサと祖父のヴァシリーが住んでいて、祖父のことも猫のことも大好きだった。祖父は大柄な人で、いつも何かを造っていた。帽子をかぶって、耳に鉛筆を挟んで、口笛を吹きながら。僕は友達と自転車に乗って世界を冒険した一森の中を歩き回ったり、小屋を作ったり、ベリーを見つけて食べたり、田舎での生活は自由と独立心と友情にあふれていた。
このユートピア的世界は今ではすっかり変わってしまった。友達はかなり前に引っ越していまい、彼らが住んでいたダーチャはもうない。何軒かは売却され、何軒かは焼失し、残りは廃墟となって朽ちている。昔、そこに宿っていた活気は蒸発してしまった。でも、この状況はゆっくりと改善されつつあって、近年はダーチャに対して新しい評価が高まっている。生きていることへの特別な感覚を抱かせてくれる場所という認識が広がっているようだ。
僕の写真を通して、ダーチャの建築スタイルを知り、強い興味を持ってくれた人たちがいる。写真を撮るだけではなく、ダーチャの修復・復元にも関わっている。復元作業をすることで、写真の世界を論理的に継続できるからだ。
ダーチャの歴史を保存するのに大切なのは、今の世界の現実問題を考慮しながら、子供の頃を思い出させるあの独特の雰囲気をできる限り再現することだと思う。ダーチャには、いろいろな時代における人々の暮らしぶりが驚くほど反映されている。一軒一軒、機能もサイズも目的も異なっていて、独特で創意工夫に溢れている。それぞれが独自の雰囲気と個性をもった生き物なのだ。
ここに掲載されている写真は、急速に消えていく儚い建築を介した時間と歴史の記録だ。メンテナンスをすれば、家は何世紀も生き続けることができる。でも所有者が目を離したら、瞬く間に枯れてしまう。それでもダーチャには未来があるとじている。今の若い世代の人たちは、親の世代とは違う視線でダーチャを見ている。彼らは自分たちの土地に新しいアイデアの種を蒔き、新しい命を育むことに夢中になる創造者たちなのだ。
著者プロフィール
フョードル・サヴィンツェフ (著/文)
1982年、モスクワ生まれ。1999年に写真家として活動をスタートし、AP通信、AFP通信などニュース配信会社の仕事に従事。2003-06年、イタルタス通信のチーフフォトグラファーを務め、その後、個人的な写真プロジェクトを手がけていく。2015年以降、“ドキュメンタリー・アート”と名付けたジャンルのプロジェクトを展開し、ギャラリーでの作品展示をメインに活動している。
石田亜矢子 (イシダ アヤコ) (著/文)
翻訳家。早稲田大学教育学部国語国文科卒、米国デラウエア大学留学。読売新聞社英字新聞に勤務したのち、フリーランスのアート/デザイン・ライターに転向。現在、主にアート及びデザイン本の翻訳を手がけている。
■発行 グラフィック社
■仕様 A4変型判 ・ソフトカバー
■頁数 240ページ
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