必要な道具は針と糸だけ。
お家の中で吊るすとわずかな風で回り、黄金色に輝く“光のモビール”ヒンメリ
麦わらに糸を通して組み立てるだけなので誰でも作ることができます。基本の正八面体とそのバリエーションによる30種類のデザインを紹介。ヒンメリのさまざまな魅力に触れることができます。
本書より部分抜粋
ヒンメリはゲルマン語の「himmel(天)」を語源に持つ、フィンランドの伝統的な麦わら細工の名前です。古くからフィンランドでは12月下旬の冬至に、太陽神の復活と翌年の豊穣を祈願する収穫祭として「ヨウル(oulu)」が行われており、ライ麦のわらを使って作るヒンメリはその装飾品として使われていました。
フィンランドの伝統である素木なヒンメリはクリスマスの飾りとなってからも受け継がれ、クリスマスから夏至まで家々の食卓の天井に吊るされました。
中が空洞の麦わらに糸を通して作るヒンメリは、別名「光のモビール」とも呼ばれています。昼間は太陽の光を反射してわらの黄金色がキラキラと輝き、夜になると幾何学模様の影が壁に浮かび上がり、幻想的な雰囲気になります。
ヒンメリの材料となるのは、主にライ麦のわらです。ライ麦は日本ではそれほど馴染みがないかもしれませんが、ヨーロッパでは主食のパンに使われる主要な穀物のひとつです。麦の中で最も耐寒性があり、やせた土地でも育つため、西アジアやヨーロッパで紀元前から栽培されています。その丈夫さによりフィンランドの短い夏でも育ち、ライ麦からできたパンは日持ちするため、人々を飢餓から救ってきました。
作品に使用しているライ麦は、2013年から自身の畑で栽培をはじめています。ヒンメリと出会い先ずは麦を育てようと思い立った時、ヒンメリにはどの麦が適しているか分からずライ麦を含め4種類の麦の種を蒔きました。次の年にはまた新たに3種類の麦を加え育てました。それから数年経ち、制作にはライ麦が一番適していると感じ、それ以降はライ麦を中心により制作に適したわらになるよう、毎年少しずつ栽培方法を変えながら無肥料無農薬で育てています。ライ麦はとても寒さに強く痩せた土壌でもたくましく育つのです。ヒンメリの材料となるまでには幾つかの季節を共に過ごし、長い時を経てようやく制作に入ることができます。
収穫は大まかに3段階に分かれており、先ずは新緑の時、次は赤紫や青紫、朱色や黄金色とそれぞれのわら他に変化した時、最後は成熱し種子を採取する頃にと、梅雨前にはすべての収穫を終えます。
著者プロフィール
仲宗根 知子 (ナカソネサトコ)(著/文)
1978年、愛知県生まれ。幼少期より葉や木の実などの自然の造形美に心惹かれ、収集して過ごす。
2007年、採りためてきた自然物を素材とした作品を模索。
2013年、ヒンメリと出会いその美しさに魅了され、自ら無肥料無農薬で麦の栽培をはじめる。
翌年、収穫した麦わらを用いた作品の制作を開始。
現在、ライ麦の無限に広がる可能性を探究しつつ、ワークショップ・展覧会などを開催しながら表現活動を行っている。
■発行 エクスナレッジ
■サイズ B5変形
■頁数 100ページ
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