著者は縁あって九歳で京都の臨済宗五山の一つ、相国寺で小僧をつとめ、十一歳の時に剃髪得度し、十三歳の時に同宗天竜寺派の寺にうつり、十九歳まで小僧をつとめた。

「老師は食事すること、つくることも修行だといわれた。お客さまに喜んでいただくのも働くことの一つ。老師は酒好きだった。(中略)私の、この本でのちに発表する「精進百撰」が一品物に片寄るのも、老師が酒豪であられたこととかかわりがある。レパートリーが自然とお酒のあて風になったのである。」


「老師と隠侍和尚の教え方は、自分で包丁をもち一品一品つくってみせて、私にも味わわせられた。ぜいたくな教室といえた。東福寺の隠侍さんから直かに畑て菜やにんじん、大根をぬいてきての調理を教えられたのである。」(以上、本書p９より)



「一年は三百六十五日あるが、毎日畑の作物が変わるわけでもない。見馴れた畝と畝のあいまに佇んで、手籠に収穫する葉のもの、根のもの、山の自然生のも入れて、親しい菜は知れたもので三十種はあろうか。山菜は山へ行ってみても、先に採られていつもの場所にないことだってある。これは自然の理である。それゆえ、恵まれ物を大事にし、七十品を、そして一点で、十品ずつつくってみたのである。つまり、焼く、揚げる、煮る、和える、蒸すの五種に生を加えた。」



「そうはいっても、この仕事は楽しかった。一品ずつつくり終えて、味見する時は格別で、皿や小鉢に盛りあげて、写真家に手渡すときのよろこびは、『赴粥飯法』にも書かれていない心の躍動であった。」(本書p.２０８〜２０９より)


すぐに作ってみたくなる一品ばかり。随筆の語り口もまるでラジオで語りかけらへているような味わいで読みやすく、美しい写真は目にもご馳走である。季節折々に開いて読み返したくなる永久保存版の一冊。

《出版社より》
心筋梗塞で倒れ心臓の3分の2を壊死し失った著者。病身に適した食生活を求めたとき、蘇ったのは少年時代禅寺の侍者として触れた精進料理の世界であった…。

本書は水上勉がすべての料理を手がけ、器は北御牧在住の陶芸家角りわ子が制作した。

今回全写真をリフレッシュし、料理とそれを盛る器の魅力がいっそう楽しめるようになりました。

誰でも何歳からでもここから始められる、精進料理入門の名著復刊。

水上勉(著/文)
発行：田畑書店
四六変型判 縦130mm 横165mm 厚さ18mm 重さ 223g 並製

★スマートレター180円より発送可能