台所で、店先で、雑踏で、人と人の間でクミンシード。その匂いが呼吸とともにやってくると、ぼくの腹の底のほうで「生きてるぜい」という野太い声が響くのだ。
11歳のときにはじめてインドを訪れ、14歳から25歳まで1年の半分以上をインドで過ごし、30年以上インド料理やスパイスと格闘してきた矢萩さんのスパイス生活レシピエッセイ。クミンシードのスパイス付き。
インド料理にかぎらず、料理の本質とは、自分や他者への寛容さにあるとおもう。
毎日の自分や家族の体調。風土と季節によって変わりゆく食材。のんびりと時間にゆとりがあるときもあれば、忙しくてそれどころではないときもある。一緒にたべる相手によっても、料理の姿は変わる。なにかを食べるというのは、単純に栄養を摂り、食欲を満たすということ以上に、いまの自分を知る手がかりにもなりうる。だからこそ、目先のこだわりや、目指すべき道を設定せず、その場その場の「食」を受け入れ、咀嚼する自分でありたい。(p10 はじめに—わたしのスパイス生活宣誓より)
生き物にたとえたら、料理に使う前のスパイスはぐっすり眠っている状態だ。人間と違って、乾燥したスパイスは声をかけても起きない。目を覚まさせるには火の熱が必要だ。乾燥したしいたけや昆布にそれぞれ戻し方があるように、スパイスにもいろんな手順で起こす方法がある。(p28 じゅわっと、タルカより)
たとえば、コンカニー料理のサールー(豆のスープ)は、材料が豆、トマト、カレーリーフ、青唐辛子、塩だけで極めてシンプルなものだが、仕上げにマスタードシード、クミンシード、ヒングなどをタルカする。油で熱したスパイスが弾け、香りがでたところで、油ごとスープにぶっかける。水に熱々の油をいれるので、じゅわわわわっという豪快な音とともに煙と香りがたちのぼる。こうすることで、香りだけではなく、コクと奥行きが加わり、味に野菜と豆だけとは思えぬ深みがでる。(p29 じゅわっと、タルカ より)
納豆にはどんなスパイスが合うか?とクミンシード、コリアンダーシード、マスタードシード、クローブ、カルダモン、カレーリーフ、カードチリなど数々のスパイスとの組み合わせを実験し、レビューを詳細に記すコーナーも必見!
読んでいるうちに、スパイスへの親しみが湧いてくる一冊です。
内容
はじめに —あるいは、わたしのスパイス生活宣誓
ササムの味
まぜてまぜて、粉まぜて
じゅわっと、タルカ
納豆にあうスパイスを求めて
クミンシードは「あの」匂い?
お調子者のレシピノート【クミンシード編】
こふきいも
モロヘイヤスープ
納豆クミンオムレツ
ジーラライス
とりの唐揚げ
編集後記
ちなみにこのシリーズとのはじめての出会いの場所は、久しぶりに行った西荻窪の乙女ロードにある「カフェオーケストラ」というカレー屋の蔵書コーナーでした。
10cm×14.5cm(こぶりの文庫サイズ)
■普通郵便94円より発送可能です